南井三鷹の文藝✖︎上等

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イワン・カラマーゾフ「大審問官」の射程【前編】

ドストエフスキーとサブカル的要素

ドストエフスキーには『罪と罰』(1866年)や『白痴』(1868年)『悪霊』(1871年)など代表作と呼べる長編がいくつもありますが、
その中でも『カラマーゾフの兄弟』(1880年)は最も宗教色が強く出ている小説です。
物語の軸は、カラマーゾフ家の「父殺し」──父フョードル・カラマーゾフ殺人事件と、その容疑者である長男ドミートリイ・カラマーゾフの裁判ですが、
そこに信仰と無神論という、宗教的なテーマが絡められた複雑な構造をしています。
フョードルの息子にはドミートリイ以外に、修道院に身を置く純真な三男のアリョーシャと、悪魔的知性の持ち主である次男のイワン、不敵な使用人の私生児スメルジャコフがいます。
(この記事では、人物名の日本語表記は新潮文庫の原卓也訳を用います)