南井三鷹の文藝✖︎上等

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ヴィリリオと〈総力戦テクノロジー〉【その3】

生きたままでの輪廻転生

前回はメディアが乗り物である、という話が中途半端なところで終わってしまいました。
速度の思想家であるヴィリリオは、『ネガティヴ・ホライズン』(1984年)で速度を生み出す乗り物について考察を試みています。
これまでのヴィリリオの主張をまとめておきましょう。

① 乗り物は乗り手を脆弱さから守る移動要塞である
② 乗り物は宗教的彼岸へと到達するための手段である
③ 速度とは暴力である
④ 乗り物に乗る、または乗り物に転生することは、支配的権力の地位にあることを表す

乗り物の初期形態は、馬やラクダなどの乗用動物です。
ヴィリリオは「乗り物」としての乗用動物が、主に戦争の手段だったことを重視しています。
乗用動物は乗り物であると同時に初期の軍事兵器でもありました。
当然のことですが、動物を乗用にするには調教が必要です。
「動物を乗用に調教することによって、運動エネルギーを、つまり馬のタンパク質ではなく、速度を保存する」と述べるヴィリリオは、
動物が狩られるものから家畜として育てられるものへと移行することで、「速度の保存」が行われるとしています。
「速度の保存」というのは面白い表現ですが、要するに電気自動車をフル充電するように、速度を生み出すエネルギーをいつでも使えるようにしておくということです。
こうして走行用の動物は、「最初の速度製造機」となり、それがやがては蒸気機関へと置き換えられていくのです。