南井三鷹の文藝✖︎上等

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ヴィリリオと〈総力戦テクノロジー〉【その2】

ヨーロッパという「速度体制」

一般にポール・ヴィリリオは「移動」を前提とした「速度」の思想家と言われています。
それはヴィリリオが速度に注目し、ヨーロッパ社会全体を「速度体制」として描き出しているからです。
「速度体制」とは、どのような社会構造なのでしょうか。
この言葉はヴィリリオの造語であるドロモクラシー(dromocratie)の訳語です。
dromo-という接頭辞はギリシア語の「走行」を意味するので、「走行体制」と訳している翻訳者もいます。
前にも述べましたが、ヴィリリオは独自な言葉の使い方をするので、語義的な正確さにこだわる必要はあまりないと思います。
僕自身は「移動と加速を管理する権力による社会体制」と理解しています。
要するに、「速度体制」とは、社会全体が速度によって規定されていることを示す言葉なのです。
この表現が、総力戦体制から逆算して取り出されたイメージであることは疑いようもないことです。
つまり、ヴィリリオはかつてない大規模破壊を導いた総力戦体制のルーツを、権力が持つ速度への欲望とその社会システム化に見ているのです。
ヴィリリオは歴史事実の引用によってそれを示していくのですが、注意したいのは、
彼の目的が歴史事実を明らかにするのではなく、歴史を材料にして現代の総力戦体制がいかに「ある種の欲望ヽヽの帰結」であったかを描き出すことにあるということです。