南井三鷹の文藝✖︎上等

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芸術疎外論【その3】

ストア主義という格差対策

前回はヘーゲルの疎外論に入る前段階として、疎外の問題が書かれている『精神現象学』が、普遍と個別の問題を取り扱った本であることを見ていきました。
今回は前回扱った主人と奴隷の論以後の展開から始めようと思います。
「自分だけで存在する」という個別的なあり方を追求した自己意識は、主人と奴隷へと分裂することとなり、
労働によって「現にあるもの」と関係する奴隷の方が、主人より自立的な存在として自らを直観する契機を持っています。
前回紹介したマクダウェルは、「統覚的自我と経験的自己」の中で、
ヘーゲルの主奴論が、共同体内部に存在する2人の別々の個人の関係を描いたものではなく、
ひとりの個人の中で分裂した意識を統合しようとするものだと主張しています。
どうもメジャーな解釈ではないようなのですが、実際にヘーゲル自身がそのような読み方を許容する書き方をしています。
主人と奴隷の章に続く「ストア主義→懐疑主義→不幸な意識」という展開では、
自己意識が不変の理念と個別的な現実に分裂することがテーマになっているからです。
この分裂はのちに疎外にも関係してくる部分ですので、少し丁寧に見ていきたいと思います。