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『古代インド哲学史概説』 (佼成出版社) 金岡 秀友 著 【その1】

多と一を結びつけることが哲学の課題

本書は1979年に刊行された『インド哲学史概説』の新装改題版です。
岩波新書の赤松明彦『インド哲学10講』を読み始めたところ、恥ずかしながら内容についていけなかったため、まずは概論的な知識が必要だと痛感して、本書を先に読むことにしました。
金岡は古代インド文化の成立から順を追って丁寧にわかりやすく説明しているので、僕のような初学者でも困らずに読み進められました。


インドは現代でも多言語国家です。
地方が変わるとインド人同士でも言葉が通じないことがよくあるようです。
つまりは異質な「多」が集合してインドという「一」を構成しているわけですが、
外来のアーリヤ人が原住民を征服して成立したと見られる古代の時点から、このような異質性の混淆というのはインド的な現象で、
それが古代インド思想にも影を落としているように感じました。


古代インド思想は先住民を征服したアーリヤ人(人種というより文化区分に近いようです)によって担われています。
アーリヤ人の源流はコーカサス地方で、ヨーロッパ人と祖先を同じくするということになります。
白い肌のアーリヤ人は征服民である自らを非アーリヤ人と峻別し、皮膚の色で差別を行いました。
「ヴァルナ」(色を意味する)という語が、カースト制度(世襲的社会階層制度)の原型である4つの基本階級を表すようになったのはそのためです。


そのアーリヤ人の最古の文献が『リグ・ヴェーダ』です。
『リグ・ヴェーダ』では4つのヴァルナが、プルシャという巨人(原人)を口、両腕、両腿、両足に解体して発生したと語られます。
こうしてアーリヤ人はヴァルナに神学的な根拠を与えようとしたのです。
『リグ・ヴェーダ』は紀元前1200~1000年くらいに原型が成立したと見られますが、実際に文字化されたのはだいぶ後のことになるようです。



『リグ・ヴェーダ』の主な内容は賛歌です。
実に1017にも及ぶ神々や宇宙などへの賛歌で構成されています。
古代アーリヤ人は戦勝や子孫繁栄などの現実的な望みを、神々に賛歌を捧げて祈ったのですが、
その神々は大きく自然神と抽象神に分かれています。
自然神の代表は雷霆神インドラで、全賛歌の4分の1がインドラへの賛歌となっています。
仏教では帝釈天の名で知られている守護神です。
抽象神の代表とされるのが道徳や立法を司るヴァルナや友愛や契約を司るミトラです。


面白いのは、『リグ・ヴェーダ』の神は33神とも3339神とも言われていて、神様の数の上では明らかに多神教で、金岡もそう述べています。
しかし、マックス・ミュラーは、祈りの対象となる神が常に一神であることから、これを単一神教もしくは交替神教と呼んでいます。
ここに「多」と「一」との交錯が早くも現れていることに注目すべきだと思います。


『リグ・ヴェーダ』に死後の世界や宇宙についての思索などの哲学的見解が見られることにも、金岡は注意を促します。
「宇宙と一なる世界精神についての万有神教的な思想が初めて顕れている。
そして、この思想は、これ以後のすべてのインド哲学を支配したものである」とヴァンテルニッツが言ったと書き留めています。
金岡は『リグ・ヴェーダ』に宇宙創造の一元的根本原理がいろいろな呼び名で登場していることに触れて、次のように書いています。


われわれが自然界・人間界および霊界(神の世界)において、さまざまに呼びならわしている一切のものは、根源的には唯一なるものからの自発的な、すなわち唯一なるものに生じた意欲(Kama)を原動力とする流出物であり、ここに、一は多であり多は一である(一即多、多即一)という、今日に至るインド思想の根本命題が確立されたのである。


多神教がただ一つのものへと収斂していく過程で、根源的な唯一なるものから流出したものが多なるものを形成していく思想が生まれていくのです。
思想形成においては多が一へと向かうわけですが、形成された思想においては一から多へと派生するかたちをとるのが興味深いところです。
その相反するベクトルの交差が「一は多であり多は一である」という逆説的な思想を生み出したように思います。


このような多と一との転換というか相互交換が、
個人でありながら共同体的存在でしかない人間にとって、いかに根源的な問題であるかを無視することはできません。
多であり一であるという問題はマルクスの価値形態論を見れば明らかなように、貨幣のあり方とも関わる問題です。


話が長くなったので、いったん閉じようと思います。
つづきはたぶん掲載される【その2】をお読みください。


1 Comment

花田心作さんへの返答

どうも、南井三鷹と申します。
花田心作さん、コメントありがとうございます。

まだまだブログは未完成ですが、我慢できずに始めてしまいました。
ツイッターは使い方が本当によくわからずやっています。
また来訪いただけるとうれしいです。

オタク的になるのが嫌で多ジャンルに手を出していましたが、「文藝」と銘打って、ジャンルを狭めようと思っています。
僕は「聖書」をしっかり読んでいないので、花田さんに何か発見がありましたら教えてください。

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