南井三鷹の文藝✖︎上等

Home > ブログ > 2019年01月11日の記事

『ハーバーマス』(ちくま学芸文庫)中岡 成文 著

対話を重視するドイツ戦後思想の旗手

ハーバーマス思想の概説書で手近に入手できるものは多くありません。
実践的な社会理論であり、政治的でもあるため、日本では非政治的で非主体的な〈フランス現代思想〉より圧倒的に人気がありません。
モラトリアム的な〈フランス現代思想〉が若者やサブカルと相性が良く、オタク相手に「商業的に」成功したのに対し、
ハーバーマスやフランクフルト学派などの社会関係性を重視する思想は、「岩波的」左派知識人のものとして敬遠されたのでしょう。
僕が以前に読んだハーバーマスの概説書は、講談社の「現代思想の冒険者たち」シリーズでした。
買うときに気づかなかったのですが、増補版ではあるものの実は本書はその本を文庫版にしたものでした。
やっちまった。


しかし、あらためて読み直してみると前回に読んだ時より圧倒的に収穫がありました。
2003年刊行時に本書を読んだときには、ハーバーマスのコミュニケーション的行為の理論は理想を追いすぎて現実性に乏しいために、僕はあまり魅力を感じませんでした。
著者の中岡も大学時代に「ハーバーマスやきまじめなドイツ哲学・思想にあきたらず、フランスのポスト構造主義の軽快さ、警抜さに魅惑された」と自らの「回り道」について語っています。
僕は若い頃から一貫して〈フランス現代思想〉には否定的でしたが、それでもハーバーマス思想の重要性については若い時には理解が及ばなかったのです。


本書の副題に「コミュニケーション的行為」とあるように、ハーバーマスは対話を重視した人です。
彼が論争した相手はガダマー、ルーマン、デリダ、フーコーなど錚々たるものですが、このような論争を好む態度もコミュニケーション志向の現れと言えるでしょう。
日本では(僕の実体験を踏まえてみても)論争的な態度があまり好まれているとは思えませんが、それは西洋からすれば言語によるコミュニケーションに対して消極的な国と映ることでしょう。
僕が生きている期間の日本社会だけを考えても、論争がどんどん少なくなっていると思います。


そもそも思想や文学の世界はモノローグになりがちです。
ハーバーマスがコミュニケーションを重視するのには、〈フランス現代思想〉とは違うかたちでモノローグ的形而上学を(解体ではなく)批判する意図があったと思います。
特に日本では対等なコミュニケーション能力に欠けた人が、自己慰撫を目的として思想や文学に手を出すケースも多く、その代表のようなオタク(学者)がちょっと社会に認められると、権威を傘に着た態度に出ることが目立っています。
最近話題のマルクス・ガブリエルがハーバーマスから何の影響を受けていないはずもなく、彼をきっかけに日本でもハーバーマス思想がもっと見直されるといいと思っています。