南井三鷹の文藝✖︎上等

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『世界史の実験』(岩波新書) 柄谷 行人 著

柳田国男の可能性の中心

本書は柄谷行人の3年ぶりの本です。
語り下ろしなので、柄谷特有の文体よりはだいぶ読みやすくなっているように思います。
題名こそ「世界史」となっていますが、本書の内容は明らかに柳田国男論だと言えます。
柄谷は2013年に『柳田国男論』(インスクリプト)、2014年に『遊動論──柳田国男と山人』(文春新書)を出版していますので、
本書はその延長に位置づけられるものと考えてよいでしょう。


実は僕は本書の前に出ている柄谷の柳田論には興味がそそられなかったので、全く読んでいないのですが、
ちょっと調べた感じでは、『世界史の実験』の第2部にあたる山人についての考察は、すでに前著で語られている内容とそれほど変わりがないように見えます。


柄谷が強い関心を抱いているのが「山人」という存在です。
柳田国男は『遠野物語』や『山の人生』で山人について語っています。
しかし、山人が実在したことを実証することができなかったため、柳田は平地農民である「常民」ばかりを語るようになりました。
その結果、柳田は日本人の文化的多様性を無視したと批判されているのですが、柄谷は柳田が山人の存在を生涯追い続けたと反論します。
柄谷が言うように柳田が山人の存在にこだわっていたのか、それとも放棄したのかについては、僕には判断がつかないのですが、
その真偽は問わないことにして、なぜ柄谷が柳田の山人にこだわっているのか、そして柳田論でしかないものをどうして「世界史」などと言うのか考えてみたいと思います。